2005年 05月 04日
保健体育の時間(2) |
■ウォーキングの運動効果
そもそも気まぐれで始めたのだから、わたしはマシン・トレーニングの効果や運動生理学についての予備知識はほとんど持っていなかった。ところがその後、実際にウォーキングをつづけ、関連の本などを読んだ結果、今ではわれながら大した能書きが身についたものだと思う。
「速めの速度で1時間以上継続的に歩くこと」の健康上の効果は、驚くほど多岐にわたって指摘されている。めぼしいところをあげてみよう。
──休日の河川敷
筋力の強化……全身の筋肉の半分以上は脚の歩行筋を形成しており、ただ歩くだけでも数十キロの体重を移動させるために活発に働く。とくに大臀筋(後ろ太もも)、大腿四頭筋(まえ太もも)は大きな筋肉であり、ひ腹筋(ふくらはぎ)、ひらめ筋も歩行能力に大きな役割をはたす。力強く歩くとき腕を自然と大きく振ることにより、上半身の筋肉を鍛える。さらにそれらの大きな筋肉の活動に連動して腹筋・背筋が強化される。これは腰痛の防止・改善に役立つ。
内臓機能の向上……速歩は呼吸筋を発達させ肺活量を大きくする。また心臓にムリをさせずに心肺機能を強化する。脚には全身の毛細血管の70パーセントが集中しており、筋肉の活動によって血液中の脂肪分が燃焼、血液の循環が促進される。これにより足と密接関連する腎機能が向上する。
肥満防止と減量……持続する有酸素運動と活動する筋肉との共同作業によって、体表および内臓の周囲の脂肪細胞が燃焼し体重減となる。とくに歩幅を広めるなどふだんと違う筋肉を使うと体脂肪の燃焼が促進される。また時速8キロをこえるとジョギングよりもエネルギー消費は大きくなる。
「足のうらは第二の心臓」ともいわれる。ここには指を中心にして内臓諸器官につながる多くのツボが集中している。足が東洋医学やツボ健康法でしばしば重視されるのはそのためだ。ウォーキングはこれらのツボを断続的に刺激するという効果もあり、生活習慣病に縁遠い身体をつくるゆえんである。
その他、大きな歩行筋の運動は骨からカルシウム分が溶け出すのを防ぐので、骨そしょう症の予防にもなる。はては「毎日30分以上歩く人は、がんになる危険性が三分の一に減る」などなど。このような多様な運動効果をフルに引き出すためにも、大気中に酸素量が多い早朝のウォーキングが効果的なのだ。
──歩く人・ひと・ヒト
■〈歩き上手〉になろう!
たいていの人は、日常ほとんど無意識に歩いている。しかし〈たいていではない人〉は歩くことに神経を使い、〈よく歩く〉ために少なからぬ努力をしている。歩く姿の印象が大きな効果をもたらすことを知っており、そのためのトレーニングを受けているからだ。王・皇族、政治家、俳優など公的な場所によく出る人、テレビなどに登場する人は、歩く姿によって〈気品・貫禄・かっこよさ・美しさ〉など、それぞれにふさわしいイメージを演出している。(もっとも日本の政治家にその成果が見られない、あるいは逆効果が目立つのは、こう見せたいという像と本人とのギャップが大きすぎて歩き方が「板に付かない」ため)
一方、まれにだが一般人の中に、目を引くほどにすてきな歩き方の人を見かけることがある。育ちのよさを感じさせる歩き方、さっそうとした歩き方、美しい歩き方……こういう人は、きっと踊りやスポーツの心得があるのだろう。
〈世渡り上手〉とか〈話し上手〉に対して、〈世渡りべた〉〈話しべた〉などとはいうが、〈歩き上手〉とか〈歩きべた〉とは聞かない。健常者なら誰でも満一歳のころからずっと歩いているのだから、上手も下手もないわけだ。しかし、歩き方にも上手・下手が厳然とある。そこで〈よい歩き方〉とは何か、考えてみた。
──遠目にも美しい歩き(運河)
ウォーキングの立場からいえば、次のような〈よい歩き方〉の条件があげられる。
「ラクに・速く・美しく・楽しく、なるべく運動効果が上がる」
こういう歩き方を体得している人が〈歩き上手〉というわけだ。
「合理的なフォームは美しい」とは、何ごとにもあてはまる真理である。スポーツ、戦の陣形、仕事ぶりはもちろん、ファッションから土瓶の形まで、理にかなっていれば無理なく最大の力を発揮できるということ。一流選手のフォームが美しいのは当然で、それは門外漢にもわかる。
わたしは「頭がいい」とか「顔がいい」といわれたことはついぞないが、「姿勢がいい」とほめられたことは何度もある。そしてその理由のひとつは、ウォーキングにあるのではないかと思っている。ウォーキングの基本は〈姿勢〉にある。近ごろ、老いも若きもその〈姿勢〉がわるくなったために、よけい目立つのかもしれない。
〈よい姿勢〉が〈正しい歩き方〉を生み、それが結果として好数字をもたらす。ウォーキングをするからには、脚力の強化ばかりにとらわれず、もっと価値のある〈正しい歩き方〉を体得したいものだ。それは〈きれいな話し方〉や〈いい笑顔〉とともに、一生の宝となるものだから。
──おしゃべりウォーキング
■体験的アドバイス
挫折せずに〈歩き〉をモノにする条件を、具体的にまとめておきたい。
いざウォーキングを始めようとすれば、まず履き物が問題になる。通勤用の革靴や散歩ついでのサンダルみたいなものは論外。軽く、足先にやさしく、継続的な衝撃から脚を守ってくれる堅牢なシューズが必要だ。
わたしの場合、自分のシューズを持っていなかったし、運動靴ならみな同じという認識しかなかったから、息子の履き古しで始めた。しかし、長時間の歩行にはやはりウォーキング用のシューズが必要で、フィットした靴を持つことは歩きをわがものにするための絶対条件となる。今どき、安くていいシューズがいくらでもあるから、ウォーキング用のやや大きめのシューズを用意することが第一歩だ。
歩きに挫折するのは、スタミナ切れや筋肉の疲労よりも靴ずれやまめなどが理由になることが多い。その意味でソックス選びもバカにできない。シューズが新しいうちは靴ずれの心配があるが、これはばんそうこうで簡単に対策できる。問題なのは足裏や指先に生ずる痛みだ。なにしろ一歩き2万歩、片足に1万回、全体重をかけた衝撃がくり返される。2〜3時間も歩けばまめやたこができ、指先もきつくなる。それを防止するためにも厚手で通気性のいいソックスでなければならない。ただしサイズが大きすぎてしわができると、足裏に思わぬ刺激を与えるから注意が必要だ。
服装は身体の動きやすさが第一で、あとは目的に合わせて常識的に選べばいい。つまり吸湿性のシャツ、汗をしぼるためのウエアなどだ。ちょっと注意を要するのは、夏以外は薄手の長袖を携行すること。歩いて身体は暖まっていても、体表は外気にさらされて冷え切っていることがよくある。肌はうすもの一枚でもカバーしたほうがいい。
──時速40キロ?
冬の朝、息子の古いスキーウエアを着用したことがある。さすがに寒さは気にならないが、なんとなく〈ぬいぐるみ〉が歩いているようで動きがよろしくない。汗をしぼるために、夏でも宇宙服のようなウエアで歩く人もいるが、動きを活発にして筋肉を活躍させるほうが効果的だろう。
どんなスポーツでも準備運動と整理体操が大切だ。たかが〈歩き〉だといって、急に速歩するのは筋肉にも内臓にもよくない。わたしの場合、家を出てからの数分と土手を歩き始めて20分はゆっくり歩き、終わりも同じ要領にしている。
ウォーキングの基本姿勢は、力まないで身体をまっすぐに立てた姿勢だ。歩く速度を上げるためにはやや前傾姿勢がいいが、バランスのとれた全身強化には自然な直立姿勢のほうがいい。こうすると内臓が心持ち上がって、頭から足まで一本の線がとおったような快い緊張感が生まれ、胴回りを中心に身体中の大きな筋肉が連動する。
歩幅は、速度に伴って通常より自然にひろがるくらい。しゃにむに脚を伸ばすよりも、むしろ後ろ足のけりを強く、腕の振りを大きくするといい。
見落とされがちで重要なのが、腕の使い方だ。箱根駅伝の解説者は、しばしば選手の〈腕の振り〉を指摘する。マラソンランナーもスプリンターも筋力トレーニングで上腕を鍛えるのは、〈走り〉が脚と腕の共同作業だからだ。
腕を振る運動効果としては大きく振るにこしたことはないのだが、短距離走の選手のようにひじを曲げ、胸をかきむしるようなアクションは感心しない。腕に意識がいって自然な歩きではなくなり、持続性を失うからだ。それに大げさだし、人混みをかき分ける姿に似て見好いものではない。かといって、ふつうの歩行のように伸ばした腕を大きく振るとどうなるか。1、2時間も歩くと手の先に血液が集まって、指がソウセージのようにふくらんでしまう。
──「よく走ったなあ」
一番いいのはその中間ということになる。こぶしを握り加減にしてひじを浅く曲げる。脇腹をかるく掻く感じだ。こぶしをひじと水平かやや上くらいにするのがポイントで、これなら指先がむくむこともなく、腕振り効果も確保できる。
スポーツクラブのインストラクターに「3・8%の法則」というのを教わったことがある。それは「鍛えたい筋肉を意識するだけで効果が3・8%アップする」ということで、たとえば上腕二頭筋を鍛えたければ、マシンをやるときにその筋肉を意識する。ウエストを引き締めたければ、引き締めた状態でウォーキングする。3・8%を実証することはむずかしいが、心理学的に納得できる話だと思う。
ウォーキングの効果を十分に引き出すためには呼吸のしかたも大切だ。息を殺すようにしてせっせと歩いたのでは有酸素運動にならない。息を深く吐いてすばやく吸うリズムがポイントだ。もっともこのコツは、歩きを重ねていくうちに自然と体得できる。
水分の補給も一考を要する。スポーツ生理学が進む以前においては、運動前に水を飲むのはよくないようにいわれたが、今日では「十分な水分の摂取が必要」というのが常識になっている。したがって歩き出す前に、忘れずに少な目の水を飲む。これによって諸器官が活性化し、発汗が促進される。そして汗をかけば血液濃度が上昇して危険だから、歩きながらでも水を補う必要ある。もっとも、わたしは途中での給水はしない。それは帰ってすぐに飲むビールのためではなく、ただ体重計に乗る楽しみのためだ。
歩き終わっての疲れには、例の青竹踏みがよく効く。土踏まずの湧泉を中心にまんべんなく刺激すると疲れは確実に取れる。
──ちびっこサッカー
■ウォーキングのふしぎ
ウォーキングは奧が深い。よちよち歩き以来、これまで半世紀以上にわたって歩いてきたわけだが、それが単なる移動手段であったように思うことがある。歩き方のコツ、その効果とふしぎな作用に思い当たるたびに、これまでいかにいい加減に歩いていたかを悔やまれる。これからはしっかりとした、いい歩きをしたいと思うのだ。
歩くことは気持ちを元気にする。ちょっと調子が悪かったり気合いが乗らないときでも、歩き出せばちゃんといつものように歩ける。脚がペースを覚えていて、勝手に動いていくみたいだ。
脚が動けば自然に手も連動する。大手を振り、10メートルほど先を見て速歩すると、身体の奧に力がわいてくるようだ。体調が整うにつれてイライラやクヨクヨも消え、積極的な気分になる。
──ジョギング
逆にペースが上がらないときは、腕を大きく振ると効果てきめん。長時間歩いて知らず知らずペースが落ちてきたときなど、脚よりもむしろ腕の振りを意識したほうがいいくらいだ。そんなときには、脚で歩くのではなく「空気中を腕で泳ぐ」ような気がする。
歩き出して4、50分もすると調子が出てくる。全身がしっくりと連動した感じで、軽くリズミカルに回転する。このときは、歩こうとか歩いているとかいう意識がなく、天馬になって風を切っている気分だ。
とことん疲れると奇妙な体験をすることがある。タッタッタッと何時間も歩いた後、やめようと思っても脚が止まらない。脳と脚のあいだの通信機能がおかしくなったみたいに、脚が止まる力さえなく惰性で動くのだ。
かつて、試みに平均的な一日の歩行数を数えたことがある。家から駅、駅から会社の往復に、駅構内や社内を歩くのもランチの外出も計算した合計が約6000歩だった。それで日常的に1万歩をクリアするのはムリだとわかった。したがって、わたしがクラブや土手を歩くのは生活歩数の不足分を補う、あるいはつぎに備えて蓄える意味がある。
それでも月に60〜70キロ、年間にすると800キロ近い。東京から倉敷あるいは青森あたりまでの距離を歩いたことになる。
マラソンの高橋尚子選手の「楽しいから、走るのが好きだから走る」という発言は、まさに彼女が〈よいランナー〉であることの証明といえる。
「歩くのがおっくう、めんどう」と感じる人は、すでに黄色信号が灯っているといえる。歩かないとますます歩きに縁遠くなり、歩いているうちにそれが苦にならない身体に変わる。今のうちに〈気楽に楽しく〉歩く習慣をつけたいものだ。
──なおなお楽し
そもそも気まぐれで始めたのだから、わたしはマシン・トレーニングの効果や運動生理学についての予備知識はほとんど持っていなかった。ところがその後、実際にウォーキングをつづけ、関連の本などを読んだ結果、今ではわれながら大した能書きが身についたものだと思う。
「速めの速度で1時間以上継続的に歩くこと」の健康上の効果は、驚くほど多岐にわたって指摘されている。めぼしいところをあげてみよう。
──休日の河川敷
筋力の強化……全身の筋肉の半分以上は脚の歩行筋を形成しており、ただ歩くだけでも数十キロの体重を移動させるために活発に働く。とくに大臀筋(後ろ太もも)、大腿四頭筋(まえ太もも)は大きな筋肉であり、ひ腹筋(ふくらはぎ)、ひらめ筋も歩行能力に大きな役割をはたす。力強く歩くとき腕を自然と大きく振ることにより、上半身の筋肉を鍛える。さらにそれらの大きな筋肉の活動に連動して腹筋・背筋が強化される。これは腰痛の防止・改善に役立つ。
内臓機能の向上……速歩は呼吸筋を発達させ肺活量を大きくする。また心臓にムリをさせずに心肺機能を強化する。脚には全身の毛細血管の70パーセントが集中しており、筋肉の活動によって血液中の脂肪分が燃焼、血液の循環が促進される。これにより足と密接関連する腎機能が向上する。
肥満防止と減量……持続する有酸素運動と活動する筋肉との共同作業によって、体表および内臓の周囲の脂肪細胞が燃焼し体重減となる。とくに歩幅を広めるなどふだんと違う筋肉を使うと体脂肪の燃焼が促進される。また時速8キロをこえるとジョギングよりもエネルギー消費は大きくなる。
「足のうらは第二の心臓」ともいわれる。ここには指を中心にして内臓諸器官につながる多くのツボが集中している。足が東洋医学やツボ健康法でしばしば重視されるのはそのためだ。ウォーキングはこれらのツボを断続的に刺激するという効果もあり、生活習慣病に縁遠い身体をつくるゆえんである。
その他、大きな歩行筋の運動は骨からカルシウム分が溶け出すのを防ぐので、骨そしょう症の予防にもなる。はては「毎日30分以上歩く人は、がんになる危険性が三分の一に減る」などなど。このような多様な運動効果をフルに引き出すためにも、大気中に酸素量が多い早朝のウォーキングが効果的なのだ。
──歩く人・ひと・ヒト
■〈歩き上手〉になろう!
たいていの人は、日常ほとんど無意識に歩いている。しかし〈たいていではない人〉は歩くことに神経を使い、〈よく歩く〉ために少なからぬ努力をしている。歩く姿の印象が大きな効果をもたらすことを知っており、そのためのトレーニングを受けているからだ。王・皇族、政治家、俳優など公的な場所によく出る人、テレビなどに登場する人は、歩く姿によって〈気品・貫禄・かっこよさ・美しさ〉など、それぞれにふさわしいイメージを演出している。(もっとも日本の政治家にその成果が見られない、あるいは逆効果が目立つのは、こう見せたいという像と本人とのギャップが大きすぎて歩き方が「板に付かない」ため)
一方、まれにだが一般人の中に、目を引くほどにすてきな歩き方の人を見かけることがある。育ちのよさを感じさせる歩き方、さっそうとした歩き方、美しい歩き方……こういう人は、きっと踊りやスポーツの心得があるのだろう。
〈世渡り上手〉とか〈話し上手〉に対して、〈世渡りべた〉〈話しべた〉などとはいうが、〈歩き上手〉とか〈歩きべた〉とは聞かない。健常者なら誰でも満一歳のころからずっと歩いているのだから、上手も下手もないわけだ。しかし、歩き方にも上手・下手が厳然とある。そこで〈よい歩き方〉とは何か、考えてみた。
──遠目にも美しい歩き(運河)
ウォーキングの立場からいえば、次のような〈よい歩き方〉の条件があげられる。
「ラクに・速く・美しく・楽しく、なるべく運動効果が上がる」
こういう歩き方を体得している人が〈歩き上手〉というわけだ。
「合理的なフォームは美しい」とは、何ごとにもあてはまる真理である。スポーツ、戦の陣形、仕事ぶりはもちろん、ファッションから土瓶の形まで、理にかなっていれば無理なく最大の力を発揮できるということ。一流選手のフォームが美しいのは当然で、それは門外漢にもわかる。
わたしは「頭がいい」とか「顔がいい」といわれたことはついぞないが、「姿勢がいい」とほめられたことは何度もある。そしてその理由のひとつは、ウォーキングにあるのではないかと思っている。ウォーキングの基本は〈姿勢〉にある。近ごろ、老いも若きもその〈姿勢〉がわるくなったために、よけい目立つのかもしれない。
〈よい姿勢〉が〈正しい歩き方〉を生み、それが結果として好数字をもたらす。ウォーキングをするからには、脚力の強化ばかりにとらわれず、もっと価値のある〈正しい歩き方〉を体得したいものだ。それは〈きれいな話し方〉や〈いい笑顔〉とともに、一生の宝となるものだから。
──おしゃべりウォーキング
■体験的アドバイス
挫折せずに〈歩き〉をモノにする条件を、具体的にまとめておきたい。
いざウォーキングを始めようとすれば、まず履き物が問題になる。通勤用の革靴や散歩ついでのサンダルみたいなものは論外。軽く、足先にやさしく、継続的な衝撃から脚を守ってくれる堅牢なシューズが必要だ。
わたしの場合、自分のシューズを持っていなかったし、運動靴ならみな同じという認識しかなかったから、息子の履き古しで始めた。しかし、長時間の歩行にはやはりウォーキング用のシューズが必要で、フィットした靴を持つことは歩きをわがものにするための絶対条件となる。今どき、安くていいシューズがいくらでもあるから、ウォーキング用のやや大きめのシューズを用意することが第一歩だ。
歩きに挫折するのは、スタミナ切れや筋肉の疲労よりも靴ずれやまめなどが理由になることが多い。その意味でソックス選びもバカにできない。シューズが新しいうちは靴ずれの心配があるが、これはばんそうこうで簡単に対策できる。問題なのは足裏や指先に生ずる痛みだ。なにしろ一歩き2万歩、片足に1万回、全体重をかけた衝撃がくり返される。2〜3時間も歩けばまめやたこができ、指先もきつくなる。それを防止するためにも厚手で通気性のいいソックスでなければならない。ただしサイズが大きすぎてしわができると、足裏に思わぬ刺激を与えるから注意が必要だ。
服装は身体の動きやすさが第一で、あとは目的に合わせて常識的に選べばいい。つまり吸湿性のシャツ、汗をしぼるためのウエアなどだ。ちょっと注意を要するのは、夏以外は薄手の長袖を携行すること。歩いて身体は暖まっていても、体表は外気にさらされて冷え切っていることがよくある。肌はうすもの一枚でもカバーしたほうがいい。
──時速40キロ?
冬の朝、息子の古いスキーウエアを着用したことがある。さすがに寒さは気にならないが、なんとなく〈ぬいぐるみ〉が歩いているようで動きがよろしくない。汗をしぼるために、夏でも宇宙服のようなウエアで歩く人もいるが、動きを活発にして筋肉を活躍させるほうが効果的だろう。
どんなスポーツでも準備運動と整理体操が大切だ。たかが〈歩き〉だといって、急に速歩するのは筋肉にも内臓にもよくない。わたしの場合、家を出てからの数分と土手を歩き始めて20分はゆっくり歩き、終わりも同じ要領にしている。
ウォーキングの基本姿勢は、力まないで身体をまっすぐに立てた姿勢だ。歩く速度を上げるためにはやや前傾姿勢がいいが、バランスのとれた全身強化には自然な直立姿勢のほうがいい。こうすると内臓が心持ち上がって、頭から足まで一本の線がとおったような快い緊張感が生まれ、胴回りを中心に身体中の大きな筋肉が連動する。
歩幅は、速度に伴って通常より自然にひろがるくらい。しゃにむに脚を伸ばすよりも、むしろ後ろ足のけりを強く、腕の振りを大きくするといい。
見落とされがちで重要なのが、腕の使い方だ。箱根駅伝の解説者は、しばしば選手の〈腕の振り〉を指摘する。マラソンランナーもスプリンターも筋力トレーニングで上腕を鍛えるのは、〈走り〉が脚と腕の共同作業だからだ。
腕を振る運動効果としては大きく振るにこしたことはないのだが、短距離走の選手のようにひじを曲げ、胸をかきむしるようなアクションは感心しない。腕に意識がいって自然な歩きではなくなり、持続性を失うからだ。それに大げさだし、人混みをかき分ける姿に似て見好いものではない。かといって、ふつうの歩行のように伸ばした腕を大きく振るとどうなるか。1、2時間も歩くと手の先に血液が集まって、指がソウセージのようにふくらんでしまう。
──「よく走ったなあ」
一番いいのはその中間ということになる。こぶしを握り加減にしてひじを浅く曲げる。脇腹をかるく掻く感じだ。こぶしをひじと水平かやや上くらいにするのがポイントで、これなら指先がむくむこともなく、腕振り効果も確保できる。
スポーツクラブのインストラクターに「3・8%の法則」というのを教わったことがある。それは「鍛えたい筋肉を意識するだけで効果が3・8%アップする」ということで、たとえば上腕二頭筋を鍛えたければ、マシンをやるときにその筋肉を意識する。ウエストを引き締めたければ、引き締めた状態でウォーキングする。3・8%を実証することはむずかしいが、心理学的に納得できる話だと思う。
ウォーキングの効果を十分に引き出すためには呼吸のしかたも大切だ。息を殺すようにしてせっせと歩いたのでは有酸素運動にならない。息を深く吐いてすばやく吸うリズムがポイントだ。もっともこのコツは、歩きを重ねていくうちに自然と体得できる。
水分の補給も一考を要する。スポーツ生理学が進む以前においては、運動前に水を飲むのはよくないようにいわれたが、今日では「十分な水分の摂取が必要」というのが常識になっている。したがって歩き出す前に、忘れずに少な目の水を飲む。これによって諸器官が活性化し、発汗が促進される。そして汗をかけば血液濃度が上昇して危険だから、歩きながらでも水を補う必要ある。もっとも、わたしは途中での給水はしない。それは帰ってすぐに飲むビールのためではなく、ただ体重計に乗る楽しみのためだ。
歩き終わっての疲れには、例の青竹踏みがよく効く。土踏まずの湧泉を中心にまんべんなく刺激すると疲れは確実に取れる。
──ちびっこサッカー
■ウォーキングのふしぎ
ウォーキングは奧が深い。よちよち歩き以来、これまで半世紀以上にわたって歩いてきたわけだが、それが単なる移動手段であったように思うことがある。歩き方のコツ、その効果とふしぎな作用に思い当たるたびに、これまでいかにいい加減に歩いていたかを悔やまれる。これからはしっかりとした、いい歩きをしたいと思うのだ。
歩くことは気持ちを元気にする。ちょっと調子が悪かったり気合いが乗らないときでも、歩き出せばちゃんといつものように歩ける。脚がペースを覚えていて、勝手に動いていくみたいだ。
脚が動けば自然に手も連動する。大手を振り、10メートルほど先を見て速歩すると、身体の奧に力がわいてくるようだ。体調が整うにつれてイライラやクヨクヨも消え、積極的な気分になる。
──ジョギング
逆にペースが上がらないときは、腕を大きく振ると効果てきめん。長時間歩いて知らず知らずペースが落ちてきたときなど、脚よりもむしろ腕の振りを意識したほうがいいくらいだ。そんなときには、脚で歩くのではなく「空気中を腕で泳ぐ」ような気がする。
歩き出して4、50分もすると調子が出てくる。全身がしっくりと連動した感じで、軽くリズミカルに回転する。このときは、歩こうとか歩いているとかいう意識がなく、天馬になって風を切っている気分だ。
とことん疲れると奇妙な体験をすることがある。タッタッタッと何時間も歩いた後、やめようと思っても脚が止まらない。脳と脚のあいだの通信機能がおかしくなったみたいに、脚が止まる力さえなく惰性で動くのだ。
かつて、試みに平均的な一日の歩行数を数えたことがある。家から駅、駅から会社の往復に、駅構内や社内を歩くのもランチの外出も計算した合計が約6000歩だった。それで日常的に1万歩をクリアするのはムリだとわかった。したがって、わたしがクラブや土手を歩くのは生活歩数の不足分を補う、あるいはつぎに備えて蓄える意味がある。
それでも月に60〜70キロ、年間にすると800キロ近い。東京から倉敷あるいは青森あたりまでの距離を歩いたことになる。
マラソンの高橋尚子選手の「楽しいから、走るのが好きだから走る」という発言は、まさに彼女が〈よいランナー〉であることの証明といえる。
「歩くのがおっくう、めんどう」と感じる人は、すでに黄色信号が灯っているといえる。歩かないとますます歩きに縁遠くなり、歩いているうちにそれが苦にならない身体に変わる。今のうちに〈気楽に楽しく〉歩く習慣をつけたいものだ。
──なおなお楽し
by knaito57
| 2005-05-04 15:53
| 保健体育の時間(2)
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