2005年 05月 10日
動物の時間(2) |
■川の魚たち
わたしのウォーキングは朝の早いのが自慢なのだが、負けずに早いのが釣り人である。 夜も明けないうちから岸辺に陣取り、竿をセットしてじっとしている。キャンピング・カーを乗り入れての装備は万全、川岸に長尺の竿を7、8本もセットしている〈剛の者〉もいる。釣り上げた瞬間に行き合ったことがあるが、70センチくらいの大物が岸辺ではねていた。
利根運河が江戸川に流れ込む河口辺は獲物が多いのか、シーズンには太公望のちょっとした寄り合い所みたいににぎわう。それを橋の上から眺めている閑人もけっこういる。
立てた棒に古傘を結びつけて、背後に差しかかるようにしている釣り人もいる。雨と強い日射しをさけるための工夫なのだろう。そんなようすを眺めながら、わたしは腕を振って歩く。歩く。
(眠いだろうに。寒いだろうに。釣りがそんなにおもしろいかねえ)
せっせと身体を動かして日ごろの運動不足を解消、ひたすらスリムになりたい当方からみれば、ただじっとしている釣り人はばかばかしく見える。逆にあちらから見れば、用もないのにせっせと歩いているやつの気が知れないというところだろう。しょせん趣味の道とはそんなもので、他人の趣味というのはあほくさく見える。そして、さまざまな異種の人間を取り込んで、ゆったり流れるふところの深さが江戸川のいいところなのだ。
すなわちこの川は釣り人たちのワンダーランドでもあるのだ。魚の種類はよくわからないが、近くの市立図書館の説明や川沿いの案内図によるとつぎのような魚がいるらしい。
フナ、ウグイ、タナゴ、メダカ、ハゼ、コイ、ワカサギ、アユ、クチボソ、ソウギョ、ドジョウ、ウナギ、ナマズ、ベンケイガニ……。
ほかにも海から遡上するスズキ、ボラなどがいるとか。とくに河口に近い江戸川放水路の干潟には各種の小ガニ、貝類が多いという。
──カモの飛翔
■ミミズの大行進
土手にはミミズが多いが、ときとしてこのコースがミミズの大通りになることがある。
たとえば七月のある日のこと、舗装された道路いっぱいにおびただしい数のミミズが這っていて、足の踏み場もないということがあった。このようすを見たら、きらいな人は足がすくんでしまうだろう。
専門家によると、ミミズの総重量は人類や魚類よりも大で、すなわちミミズは地球上で一番繁栄している生物なのだそうだ。またミミズはせっせと土を食べ、養分を吸収して排泄する。粒状のいい土質に変える土壌改良の働きをする。だからわたしは庭の畑では彼らを厚遇しているのだが、けっして好きなわけではない。
その大小ニョロニョロしたのが、コース全体にあふれ出しているのだ。よく見ると、川側の斜面から道路を横切って田んぼ側に大移動しているらしい。ところが、幅2メートルのコースを越えきらぬ間に力つきるやつも多い。かなり熱くなっている舗装道路に水分を奪われてしまって、すでにひからびているのも目立つ。まさに死屍累々という光景だ。それでもそれを越えるようにして、後からあとからつづいてくる。
いったい何が起こったのか——。
ふだんは目立たないが、もともと土手はミミズの楽園なのだ。それがこの夏の雨不足で異常な事態となって、あるいはさらなる悪化を予知して決死の大移動を敢行した、というのが素人の推測である。
ところが不思議なことに、一週間後に歩くとミミズの死骸などきれいに消えている!
で、歩きながらまた考えた——。
行き倒れたミミズは、夏の陽射しに焼かれて干物になった。それから強風にあおられて土手の草むらに落ちた。あるいは夕立で洗い流されたかしれない……。そんなことを考えていると、目の前に答えがあった。カラスだ! カラスがミミズの干物をくわえて飛んでいく。おそらくカラスだけでなく、ほかの野鳥もこのごちそうにありついたのだろう。わたしは、人目のない時間にこの土手でくり広げられている饗宴のようすに、しばし思いをはせたものだ。
──水田のシラサギ
■モグラ・トンボ・チョウ
夏の朝、まだ暗いうちに土手に上ると、コウモリが黒い影をひらめかせて宙を舞っている。「近くでマムシが出たから草むらには入らないように」という注意報が出る年もある。ゆたかな自然とはいっても、ロマンチックでないこともあるのだ。
時節には、土手の斜面にはモグラが掘り起こした土の小山が点々と見られる。モグラは昆虫やミミズを食べるというから、土手はモグラにとっても天国なのかしれない。その土くれの下には当然、彼らの穴があるはずだ。小山は多い場所では畳一枚のスペースに数個もある。ということは、土手全体にモグラのトンネルが張りめぐらされている!
わたしの脳裏には「巨大な堤防も蟻の一穴から崩れる」という言葉がしっかりインプットされているので、モグラの小山を見るとギクッとする。
大小色とりどりのチョウ類も多い。もともと昆虫の多い土地柄だが、この辺りは畑とつづいているからチョウの種類も数も多い。市街地では見かけない紋様のものもいるから、専門家にとっても絶好のポイントなのかもしれない。
もちろんトンボの種類も多い。土手を歩いていると、ギンヤンマが一直線に飛んできてぶつかりそうになる。この大物には、思わず子どものころの胸の高鳴りを思い起こす。赤トンボはまだ夏の盛りから群をなして飛び交う。夕空に浮かぶあのこい赤色もまた、少年時代へとタイムスリップさせる情景だ。
小さな生命の営みにふれて、やさしく豊かな気持ちになっているわたしが、「ブー・ブー」という異色の鳴き声でわれに戻ることがある。アメリカ野球の観客が鳴らすブーイングに似たこのつや消しの音声の正体を、ながいことブタだと思っていた。だが、近くにブタなどいない。あとで知ったのだが、田んぼなどにいるウシガエルだった。そういえば、ウシの鳴き声にもよく似ている。
きわめておおざっぱな紹介だが、土手にはこのようにさまざまな昆虫や小動物が息づいている。ここは、早足で歩くだけではあまりに惜しいワンダーランドなのだ。
──モグラ山
by knaito57
| 2005-05-10 12:26
| 動物の時間(2)
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