2006年 08月 06日
「ひまわりの里」へ |
関宿は今日でこそ僻遠の地に見えるが、徳川幕府は代々ここに譜代大名を配置した。地政学的に江戸城防備の要衝であり、また舟運による産業経済上の役割も大きかったからだ。
初代関宿藩主である久世広之は大和守、老中をつとめて「伊達騒動」の収束にも活躍した。七代目の大和守広周のころは六万八千石。幕末期の老中のひとりとして重きをなした。
関宿城博物館の天守閣は古い図面をもとにして忠実に再現されたという。その広さは十畳間ほどで、広壮なものではない。しかし360度の広視界、敵軍が迫ればいち早く発見できたであろうことは実感できる。
ここで一息ついた後、同年輩の男性職員に「ひまわりの里」の所在を(無料入場の手前もあり)きわめて礼儀正しく遠慮深く尋ねる。と、地図を示しながら劣らず懇切丁寧に教えてくれた。
また自転車を駆って約10分。江戸川の土手と国道に挟まれた広大な地域、休耕田や荒れ地を利用したひまわり畑が点在する場所に至る。一角には古びた提灯が並び野菜即売所のような仮小屋があるが、訪問者はまばらですでに“祭りの後”という風情だ。
全体に先日来の長雨で荒れた感じで、すでに黒く立ち枯れている区画もある。こちらの背丈より高いひまわりが林立する中を歩き回って、比較的元気な花の群に入り込む。われ蜜蜂となって花に埋もれん、という幸せの図だ。
私はひまわりが好きだ(もちろん種ではなく花。大リーグの野球選手やインコじゃないんだから)。ほかに好きな花はと問われれば、迷わず菜の花と除虫菊をあげる。トシをとると、何ごとによらず好き嫌いがハッキリしてくるものだが、偏屈者の私は若い時分からそれがハッキリしていた。それはいいとしても、「好きなもの・こと・ひと」よりも「嫌いなもの・こと・ひと」のほうがずっと多く、しかもその傾向が年ごとに強くなるのは困ったものだ。
その点、ひまわり・菜の花・除虫菊は早くから好きな花のトップ3を占めて不動だったことに気づく。──なぜだろう。迷路のようなひまわりの中で考えた。
理由のひとつは色の取り合わせだと思う。緑と黄色あるいは緑と白というコントラストが、私にはたいへん「みずみずしく・やさしく」感じられるのだ(前回の2画像やエゴの花も似たような感覚)。そういう配色はほかにもないわけではないが、この三つの花を好む共通点のもうひとつは「素朴で・ありきたりで・健気な」美しさであることか(オイルや蚊取り線香などの実用性という理由はないと思う)。
菜の花とひまわりには、夏の想い出や子どものころの情景につながる“郷愁”めいたものがある。また、ひまわりは“太陽”を連想するような侵しがたい神秘性を秘めているとも思う。
──などと、あれこれ理屈をこねてひまわりの森を徘徊するうち、次第に現実的な本性がもたげてくる。……そうだ、持ち帰り自由だ! 手みやげだ!
それからは目つきも変わって、元気のいい大輪を物色する。結局、8本を剪り茎を束ねてビニールでくるむ。それを自転車かごにのせて、萎れないうちにとばかり、疲れも忘れて帰途につく。強い日射しの中、ひまわりの束を先導のごとくギコギコ走る汗みずくの姿は、自分でもさっそうたるものとは思わないが、何かいい収穫があったような充実の気分だった。
あいにく、帰路も風はアゲインスト。歩きの時よりもそれがもろに感じられて、ペダルが重い。計算すると、風によるロスは行きで5分、帰りで15分、計20分ほどはあったように感じる。
帰着は2時過ぎ。この日の走行距離は、土手の往復が62キロ、ひまわり探しとあれこれしめて合計約65キロ。都心まで往復した以上の距離だ。120円のドリンク1本でこれだけ走るのだから、エコノミー設計のボディとはいえる。
とはいえ、かなり疲れた。自転車で疲れるなどはほとんど記憶にないことだ。それは歩きとは異質のものだから、主として使う筋肉がだいぶちがうのだろう。ことに腰の疲れと尻肉の痛みがきつかった。
それと日焼け。つば広帽子だから顔はたいしたことないが、肩からの両腕が赤く日焼けして熱を持ち、落ちつくまでに3〜4日かかった。戦利品のひまわりは葉っぱこそちりちりになったが、まだ十分に輝いている。
向日葵の一茎一花咲きとほす(津田清子)
by knaito57
| 2006-08-06 13:41
| ■ときどき日記
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Comments(7)
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saheizi-inokori at 2006-08-06 16:01
お見事!次の日も歩いたわけですね。
最後の写真の向日葵、絵のようです。ゴッホを思い出させる背景の細かい筆使いです。
最後の写真の向日葵、絵のようです。ゴッホを思い出させる背景の細かい筆使いです。
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散歩好き
at 2006-08-07 07:55
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夏に向日葵は欠かせないものです。小生の守備範囲では向日葵は余りなく古ヶ崎のコスモス畑に今日2株咲き出しました。それにしても炎天下65kmは凄いです。
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散歩好き
at 2006-08-07 21:38
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関宿の出身者に鈴木貫太郎総理大臣がいます。昭和30年の映画反乱
226事件を描写した映画で積極的だった安藤大尉も心酔していた鈴木貫太郎にも思いを馳せます。宝珠花と言う地名もあり未知の関宿には大いなる秘密を感じます。
江戸時代の初め江戸の人口が100万人を超え相模湾の魚では賄いきれなくなって九十九里の魚を江戸へ運ぶことになって木下から松戸納屋岸まで馬で魚を運んだが現在の6.7.8月は舟の底に水を張って関宿周りで江戸に魚を運んだと言います。流山の江戸川もソウですが江戸時代は100艘を越える高瀬舟が行きかっていたようです。
226事件を描写した映画で積極的だった安藤大尉も心酔していた鈴木貫太郎にも思いを馳せます。宝珠花と言う地名もあり未知の関宿には大いなる秘密を感じます。
江戸時代の初め江戸の人口が100万人を超え相模湾の魚では賄いきれなくなって九十九里の魚を江戸へ運ぶことになって木下から松戸納屋岸まで馬で魚を運んだが現在の6.7.8月は舟の底に水を張って関宿周りで江戸に魚を運んだと言います。流山の江戸川もソウですが江戸時代は100艘を越える高瀬舟が行きかっていたようです。
前文が省略しすぎたのでURLで詳しく御覧下さい。失礼しました。
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cyclist_maki at 2006-08-08 06:51
夏の日差しの中に輝くひまわりの姿もいいものですが、
花瓶にさしたひまわりも良い風情ですね。
花瓶にさしたひまわりも良い風情ですね。
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knaito57 at 2006-08-11 09:02
バスマット上の壺に抛り込んだだけなので、ゴッホを連想されては気恥ずかしい。saheiziさんのご指摘で「ひまわりには“意志”とか“自己主張”のような精神性があることに気づきました。花固有の力ですね。
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knaito57 at 2006-08-11 09:45
鈴木貫太郎、宝珠花それに将棋好きの私には関根金次郎……さまざまな固有名詞がイメージを膨らませてくれる関宿です。在住の方が良質のブログを立ち上げてくれたら、それも欲をいえば「江戸川と工兵学校」のように地理・歴史をふまえた情報に富んだものをと願います。関宿の“散歩好き”さんいでよ、です。